麦穂5月号巻頭言 ナガミノヒナゲシ 主任司祭 細井保路

2024/5/13

              ナガミノヒナゲシ                                  主任司祭 細井保路  「ナガミノヒナゲシ」とか「ナガミヒナゲシ」と呼ばれる野草があります。 タネの輸が縦長なのでこの名前がついているようです。朱色に近いオレンジ色 の可憐な花を咲かせます。毎年幼稚園にも咲いていました。  しかし、今年の4月半ば、車を運転しているときにラジオから流れてきた情 報に驚きました。ある町で、本格的な「駆除」を始めたというのです。そして、4月30日に朝のテレビ番組で、「ナガミヒナゲシは有毒だ」という話が取り上げられました。「専門家」のコメントとして、ペットもかぶれる恐れがあるから注意しろとのことでした。こうなると、幼稚園の庭に咲かせておくわけにはいきません。情報を見た人たちは、一斉に心配をはじめるからです。朝のうちに、すべて根つこから引き抜いて処分しました。以前から私は、散つたあとの花柄だけを摘んでいました。そのとき黄色い汁がたくさん手につきましたが、草にかぶれにくい体質のようで、何事もなく過ごしていました。繁殖力が強いのは確かですが、「毒」とまで言われるのはちょつとかわいそうな気がしました。  実はその数日前に、ポストに「くらしのマーケット」の記事のコピーが入つ ていました。ナガミヒナゲシの駆除対策が書かれたネットの記事で、「可愛らしい花を咲かせるナガミヒナゲシですが、実は毒があります。アルカロイド性の有害物質。黄色い汁の中に含まれ、素手で触るとかぶれる恐れがある。」というところが鉛筆で囲つてありました。近所の方か、幼稚園の保護者が、そつと知らせてくれたのだと思います。  教会の庭に私の好きなジンジャーが植わっていますが、これも繁殖力が強い ため、オーストラリアでは「有害植物」に分類されていると聞きました。「害J とか「毒」などという言葉は、不安を煽ります。扱いに配慮が必要だという程 度のことでも、みんなの不安をかきたてないためには、「駆除」してしまうしかありません。  植物の話だけではなく、人間同士でも、政治の世界での反対陣営に対するレ ッテル貼りや、ヘイトスピーチなどがあります。相手を刺すような言葉が、ま すます憎悪を掻き立てるのです。人を責めたり貶めたりする言葉は不安を生む ばかりです。  街角の空き地で、ナガミヒナゲシを見つけると、なぜか「がんばれよ」とエ ールを送りたくなります。

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